調査開始
まさかと思いましたが、体重計り屋という職業は存在するようです。
私も正直、この目で見るまでは半信半疑でした。
しかし実際に遭遇してしまったからには、存在を認めるほかありません。
しかし、実在するとはいえ、職業として成り立っているのかは話が別ではないでしょうか。
ここは橋の上です。
果たしてこんな場所で体重を計る人間、つまりは顧客が存在するのでしょうか?
体重測定業界のことを何も知らない素人の私が言うのも憚られますが、もう少し場所を考えた方が良いのではないでしょうか。
わざわざ橋の上、しかもそこそこ人で賑わっている観光地で自分の体重を計る人間がいるとは思えません。
はっきり言って恥ずかしいです。
それ以前に、当たり前ですがここに来る人は必ず服を着ていますし、正確な体重を測定することはできません。
これならまだ体重計を持ち運んで訪問販売ならぬ訪問測定を行った方が、利益は出るのではないでしょうか。
そもそも、この人はプロ体重計り屋ではなく、趣味で橋の上に体重計を置いているだけという可能性も現時点では否定できません。
当然と言えば当然ですが、通行人と思わしき人と会話することはあっても、体重を計っていく人はいません。
この写真のおじさんも、少しばかり体重計り屋さんのおじいちゃんと喋ったあと、そのままどこかへ消えていきました。
やはり体重計り屋の存在は、都市伝説に過ぎなかったのでしょうか…。
とはいえ、このように体重計をセットしたおじいさんが目の前に鎮座している姿を見られたことにより、私の心はある種の満足感のようなもので満たされていました。
確かに、この人がこの道一筋で食べているという確証はありません。
ただ単に、ガラタ橋で体重計を眺めるのが生き甲斐のおじいちゃんかもしれません。
しかしこうして遠い異国の地で、体重計と人間の絆とも言うべき微笑ましいひとコマを見るに、「体重測定業界の未来も捨てたもんじゃないな」と思えるのでした。
これで今回の調査は終了です。
もう他に見るべきところもなさそうなので、ここを離れることにしましょう。
乗ってる!!
目の錯覚ではありません。
今、目の前で確かに人間(♂)の体重が測定されています。
…一瞬自分の目を疑いましたが、橋の上で体重を計る人って本当に存在するんですねぇ。
このお兄さんは体重測定後、額は不明ですがしっかりとおじいちゃんに料金を支払っていました。
つまりここには需要と供給、いわゆるビジネスが存在していたのです。
「そんな仕事ある訳ないだろう」
「橋の上なんかで体重を計る奴なんていないだろう」
物事をそんな先入観で決めつけてはいけない。
私は強く思い知らされることとなりました。
我々には理解しにくいかもしれませんが、このお兄さんは「たとえ服を着たままでもいいから、橋の上で体重を計りたかった」。
そのためにお金を支払った。これが事実なのです。
確かに自分自身を思い起こせば、休日に街中を歩いていたら急に自分の体重を無性に計りたくなることって、意外とあるかもしれませんわけがない。
とにかく、職業としての体重計り屋さんが存在することはこれで確認できました。
自分の知らない世界を覗き見ることができた点。
そして物事に対する考え方を改めさせられたという点で、有意義な検証だったと思います。
流れに乗って、私も測定させて頂きました。
…申し訳ありません。
今回は調査に公平を期すために、あくまで自分は客観的に眺めているだけにしたかったのですが…
橋の上で体重を計るということの誘惑には勝てませんでした。
というわけで、つい勢いで乗ってしまったため、測定料をお支払いすることとなりました。
しかし相場が分からない上に言葉が通じない(英語も全く通じない)ため、なんとなく1トルコリラ(当時の為替レートでおよそ52~53円)を支払ったところ、どうやら了承頂いたようでした。
どれぐらいの売り上げになるのか
さて、これでプロの体重計り屋さんが存在することは確認できましたが、次は彼らの報酬が気になるところですよね。
この商売で一体どれぐらい稼ぐことができるのでしょうか。
リアルな売り上げは本人にしか分からないところでありますが、ざっくりと計算してみます。
もし想定外の高収入を得られる(=需要が高い)ようであれば、私も今すぐ会社に退職届を提出し、来月からさっそく体重計を片手に淀川大橋へ繰り出したいと思います。
計算してみる
細かい計算は私の頭脳では不可能なのでかなり乱暴な計算になりますが、おおよその月収と年収を推測してみましょう。
この日、私は約30分程度このおじいさんを観察しました。
その間に体重計に乗った人数は、私を含めて3人です。
その他条件は、面倒なので以下のように仮定します。
- 報酬は1回の測定につき、1トルコリラ(以下、1TL)とする
- 勤務時間中は、調査実施時と同様のペースが続くものとする(3人/0.5h→6人/1h)
- 勤務は8時間/1日、年間休日120日とする(ホワイト企業)
では、計算してみましょう。
年収
1TL×6人×8h×(365日-120日)=11,760TL
月収
(年収)11,760TL/12=980TL
ということで、
- 月収:980TL(51,450円)
- 年収:11,760TL(617,400円)
※為替レートは渡航当時の1TL=52.5円で計算
という結果になりました。
日本で生活するには非常に厳しい金額ではありますが、トルコの物価に照らし合わせるならばこの金額はどれぐらいになるのでしょうか。
ネットで色々調べたところ、まず私自身がGDPをはじめとする各種経済指標の意味が全く分からないことに加え、なぜか分かりませんがサイトによって数値が異なるので、経済指標を用いての検証は諦めて私の体感で考えたいと思います。誰か教えてください。
というわけで考えた結果、この仕事一本で生活することは「結構厳しい」というのが私の出した結論です。
体重計り屋の生活は厳しい
では、先ほどの計算を踏まえた上で、生活が厳しいと結論した理由を見ていきましょう。
トルコの物価は安くない
私自身、渡航前はトルコの物価は日本の半分ぐらいかな?と思っていましたが、そんなに安くありませんでした。
もちろん観光客が訪れるような店と現地人が訪れるような店では、かなりの物価の開きがあると予想されます。
しかし、それを踏まえてもトルコの物価は割と高いと感じました。
ネットで調べていると、いくつかのサイトで「トルコの平均月収は5~6万円程度」という内容の記述を拝見しました。
それならば理論上は体重計り屋は平均的な収入があり、生活も可能なのでは?と思ってしまいそうですが、どうやらそう上手くはいかないようです。
イスタンブールはトルコで1番の大都市です。
他の地方都市と比べると物価が高く、月5~6万円程度では生活はかなり厳しそうです。
イスタンブールを離れて物価の安い地方都市で営業するとなると、今度は生活費がかからなくなる代わりに体重計りの需要はかなり落ちこみます。
そもそも月5万円も稼げるとは思えない
じゃあさっきの計算は何だったんだという話になってしまいますが、とりあえず考察を進めたいと思います。
先ほどは計算の都合上、いくつか条件を固定して収入の推測をしましたが、実際にはこの額(月収約5万円)を稼ぐのは、非常に難しいと言わざるを得ないでしょう。
1TL支払う人はそうそういない
体重測定時に私は対価として1TLを支払いましたが、そもそも体重を計っただけで1TLを支払う人自体が、そんなにいるとは思えません。
1TLはトルコで流通している硬貨の中では最高額です。
それに体重を測定すると言っても、体重計り屋が何かしらの接客をしてくれるわけでもなく、はたまた目盛りを読み上げてくれるわけでもありません。
客が自分で体重計に乗り、自分で目盛りを確認するので、客側としてはサービスを受けた感はほとんどありません。
どちらかと言えば、田舎の無人販売所に野菜を買いに行くのに近い感覚です。
まぁ、仮に目盛りを読んでくれたとしても言葉が理解できないのですが。
体重を計った人がいたとして、支払う対価としてはおそらく0.5TL(=50クルシュ)や0.25TL(=25クルシュ)辺あたりが妥当なのではないでしょうか。
毎日50人弱も測定してくれる可能性は低い
先ほどの計算では1時間当たり6人が測定する前提となっています。
そうなると1日で48人が測定しないと、ノルマを達成できません。
そんなに体重を計りたい人、いる?
というのが、素直な感想です。
運良く物好きな団体観光客などがやって来た場合は、想定外に稼げる可能性はありますが…。
そもそもガラタ橋の2階部分は、釣り人が大挙してる光景以外はただの道路であり、他には特に見るべきものもありません。
環境的に長居することもなければ、リピーターも望めません。
この環境で、1年間で1万人以上が体重を計ってくれるというのは、ちょっと現実的ではないですね。
総評
以上をもちまして、今回の検証は終了とさせて頂きたいと思います。
個人的には、体重計り屋の存在が確認できたことに満足している気持ちはあります。
しかしそれと同時に体重計り屋の待遇、ひいては業界の地位向上について、我々ももっと考えていく必要があるのではないか、と思わせられました。
余談ですが、後日グランドバザールというイスタンブール随一の大型市場内で、移動式の体重計(紐をリードのように取り付けてある)を持った、ガラタ橋のおじいさんとは別人の体重計り屋さんを発見しました。
彼は体重計を引きずりながら市場内をウロウロしていましたが、私の見ていた限り、バザール内で体重を計っている強者を見ることはありませんでした。
本当にさ、商売する気があるならもう少し場所を考えようよ。
グランドバザールはこんなところです。
こんなところで誰が体重計るねん。
最後に
今後トルコに行く予定があったり、いつかは行きたいと思っている。
そしてその時はガラタ橋も観光するつもりだという人に、僭越ながらアドバイスを差し上げたいと思います。
今回私が下車したスィルケジ駅よりも1つ新市街側の駅である、Eminönü駅で下車した方がガラタ橋は遥かに近いです。
私は今回間違えて健康のためにあえてスィルケジ駅から向かいましたが、もしガラタ橋へ訪れるならば、エミノニュ駅から向かいましょう。
あと、観光客目線で見るならばトルコは本当に素晴らしい国です。
見どころは多いし、現地人も優しい人が多いです(詐欺師みたいなのも多いですが)。
もしも知人に海外旅行のオススメ先を聞かれたならば、回答するにあたってトルコは個人的にかなりの有力候補となります。
ただし昨今の政情不安によりテロ等が多発していることもあり、今の情勢でトルコに渡航することは個人的には決してオススメできません。
もし行かれる方がいらっしゃるならば、何かトラブルに巻き込まれたとしても「自己責任」という覚悟を持った上で十分にお気を付けて、そして目一杯楽しんで頂けたらと思います。
トルコ最高!